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狩人が獲物を追うのは、獲物が逃げるからだ。
と、誰かが言っていた。
「構うな」と拒まれれば、「構いたくなる」。
それが、人間の性分だろう。
それとも、僕が君を理解できると思うことは、おこがましいことかな?
「寝させてくれないか?・・・・・・疲れているんだ」
アルドが余りにも執拗なので、テッドはそう、ピシャリと言い放って、止まらない話を止めさせた。
「あ、うん・・・・・・」
しゅんと口を閉ざすアルドなんかに構わず、テッドはさっさと体育座りをした膝の上に、頭をうずめてしまう。
「サバの味噌煮でも食べる?」と、明るく、アルド。
「・・・・・・いらない・・・・・・」
ああ、もう、いい加減にしてくれ。
テッドは、顔をあっちの方向に向ける。
洞穴の外はどしゃ降りの雨。今夜は、此処で、二人で夜を明かす羽目になってしまった。予期せね事態。全く、真っ暗だ。体を暖める焚き火もなければ、周りを照らす灯りすらない。
「もう寝た?テッド君」
狭い洞穴におさまるように、同じように体育座りをしているアルドが、連れに囁く。しかし、身じろぎもなく、ましてや、返事もなく。未だ、寝るには、早い時間なんだけどなあ。
アルドが気になるのは、テッドが座っている場所だ。
入り口の近くのそこは、雨が少し入ってくる。これでは、濡れてしまう。
先だって、洞穴の奥に押し込まれたアルドが、「代わるよ」と、さっき言えば、「いいよ」。
せめて、もう少し、こちらに詰めてくれればいいのだ。
二人しか満足に入れないだろう小さな空間で、二人の間には、半人前ぐらいの距離がすっぽり空いている。同じ向きに、こうやって、仲良く並んで座っているというのに。
先程のやり取り。
―もう少し、こっちに来れば?
―このままで、いい・・・・・・。
アルドはじっと、暗がりの中のテッドを見詰めていた。マントすらないものだから、ただ、いつもの服のままで、小さく体を縮こませている彼は、とても寒そうに見えた。
だから、彼が完全に寝入ってしまえば、チャンスだと思った。
激しく打ち付ける雨と吹き荒ぶ風は、うるさい。
よくよく耳を澄ませて聞こえるのは、微かな、テッドの寝息。
呼吸に伴い、彼の肩がゆっくりと、わずかに上下に動く。
(もう、大丈夫かな・・・・・・)
長い時間待って、アルドは、ようやく動き出した。
低い天井に用心しながら、少しだけ腰をあげ、テッドに。
もぞもぞ。
そして、アルドが広げたマントの一部は、向かいの壁に立掛けていたテッドの矢筒を引っ掛け、無情にも其れが倒れる。
ガツンとぶつかった、大きく、イタイ音。
矢筒は、無防備なテッドの頭を、諸に直撃した。
「・・・・・・う、・・・・・・」
押しころした声をもらしたテッドが、おもむろに顔をあげる。
アルドは心底慌てた様子で、
「ごめん!テッド君!ごめん!ごめん!」
と、ひたすら平謝り。
その腕の中にあるものがアルドのマントだ、と、暗闇であったが何とか見て取れ、加えて、自分の膝の上に中途半端にのっかかった布の感触からも分かった。
「ちょっと外の様子を見ようとしたら、ぶつかっちゃって!ごめん!ごめん!痛かったでしょう!ごめん!」
必死に弁解を続けるアルドを横目に、黙々と、テッドは矢筒から飛び出た1、2本の矢を手探りに元通りに納めると、矢筒を横にして置いた。
湿った地面に直に置いて汚れるのはイヤだったが、まあ、仕方ない。
「・・・・・・気をつけろよ」
テッドは、重く、つぶやき、また、寝てしまう。こうして連れは、再び、静かになってしまった。
ちょっとして、アルドもまた腰を下ろした。
アルドはアルドのマントを無造作に丸めた。結局、彼にマントを掛けてあげられなかったことを残念に、抱きしめた。
「おい」
いつの間にやら、テッドが頬を膝小僧にくっつけたまま、顔だけをこちらに向けている。
「お前が持ってきてたんだから、お前が使えって、さっき言っただろう」
使われずにいる其れを、キツイ調子でテッドは咎めた。
「・・・・・・う、うん・・・・・・」
アルドは曖昧な返事をして、マントを脇に置く。
「テッド君は、本当に優しいね」
アルドは指を組み組み言う。
「あの時だって。僕を残して、皆で船に戻ることが出来たのに。わざわざ、残ってくれて」
「タイミングを逃しただけだ。こうなると分かってたら、残らなかった」
テッドは顔を伏せて後頭部を向けて、つっけんどんに答える。
「それに、怒らないんだよね・・・・・・」
そして、いつもいつも、だんまりしてしまうのだ。
「テッド君。僕に何か、悪いところがあったら、教えてくれないかな。是非とも、直したいんだ。はっきり言ってくれれば、本当に助かるのだけど」
「そんなの、俺の知ったこっちゃない」
アルドは左手を地面につけ、ずいと、身を乗り出す。
「何でも、いいんだ!気になることがあったら、」
「じゃあ、・・・・・・しつこいとこ」
テッドは、ちっともこちらを振り向こうとはしない。
アルドは彼に近づいた距離を、少しだけ戻して、しどろもどろに尋ねる。
「・・・・・・僕って、気持ち悪いかな?」
「そんなこと、言ってない」
眠る姿勢を何一つ変えぬまま、テッドは面倒くさそうに、しかし、はっきりと言った。
アルドは悲しそうに顔をしわくちゃにして、
「僕は昔からこうなんだ。・・・・・・いまいち、上手く、人間関係を築くことができない」
顔をそらした。
「船のみんなは、とても良い人達だね。こんな僕と、仲良くしてくれてる」
と、壁に向かって話し出す。
「でも正直、未だうまく、皆と馴染めてないんだ。話しをしてたら、・・・・・・なんだか、どきどきする。傷付けてしまったりとか、変なことを言っちゃってないか、とか・・・・・・」
ごつごつした岩肌の地面に、視線を落とし。
「こうして、自然と話ができるのは、テッド君だけなんだ」
アルドは怖くてテッドの方を見れない。
「小さい頃から、ずっと、鳥や獣達に構ってもらってばかりいたよ。皆の輪の中にずっと入りたかったのに、どうしても出来なかった。僕は、・・・・・・だめなんだ、どうしても・・・・・・」
アルドは自分の膝を引き寄せる。
「村の皆が、仲良く楽しそうに笑っている。でも僕は、その側で一人ぼっち・・・・・・。寂しくて、悲しくて、僕は森の中に逃げ込んでばかりいたんだ」
思いをしぼりだすように。
「誰もいない所で、ずっと一人でいる孤独と。側にたくさんの人がいるのに、一人でいる孤独。どちらが辛いか、って言ったら・・・・・・」
アルドはゆっくり顔を上げて、静かに言う。
「だから、テッド君の気持ち。僕、・・・・・・何となく、分かる・・・・・・」
「お前は、俺をバカにしているのか・・・・・・」
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