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ボクは、がんばらなきゃ、いけない。
そうでなきゃ、みんな、どこかにいってしまうんだ。
スノウのおうちにいられるのも、ボクがちゃんとはたらくから。
そうでなきゃ、ボクがすめるばしょなんて、どこにもない。
ボクは、がんばるから、みんなにみとめてもらえる。
ボクは、がんばるから、ここにいられる。
「すまないな。呼び出して」
「いえ」
キカのすぐ隣に少年が立つ。今日、彼は正式に、この船のリーダーとなった。
夜の海を進む本拠地船の、甲板から望む夜空には、満天の星々が瞬いている。
キカの命を受け、彼を呼びに行ったのは、忠実な部下なるジグルドとハーヴェイ。彼らは二人のいる船の舳先から遠く離れたドアの前で、邪魔が入らぬよう、二人の話に無関心を装いつつ、控えている。
「先程は、とんだ茶番だったな」
おもむろに、キカが言う。
「いや、悪いというわけではない。・・・・・・ただ、オベルの王が考えそうなことだが、まさか、それにエレノアがのるとはな」
黒い波打つ海を眺めるキカは、ふうと息を吐く。
「王との一騎打ちなど・・・・・・。しかし、オベル王も、お前があれ程強いとは思っていなかったかもしれん」
キカは彼の方を振り向いて、にやりと少し笑った。そして。
「ここに呼んだのは、お前自身の考えが訊きたいと思ってな」
キカは言う。
「二人は、お前をリーダーにして、クールークと戦おうとしている。・・・・・・群島諸国といえども、違う民族、違う文化をもった島々だ。経てきた歴史も異なれば、クールークやクレイ商会との関係も異なる」
本拠地船は群島の国々に、協力を要請する旅に向かっている。
クールークと良好な商関係を結ぶミドルポート。『食えない人物』として有名な島長が治める、ナ・ナル。そして、傍観を主張すると思われる、過疎の島ネイ。
「全く立場の異なる国を一つに束ねるには、中立な存在が必要だ。何れかの国の利益に片寄ることなく、・・・」
少年は真剣な眼差しで、黙ってキカの話に聞き入る。
「オベルの王がリーダーでは、他の国の協力は得られまい。この紛争後、どの国が主導権を握るのか、必ず牽制される。・・・・・・オベル王に、その思惑が、『喩え』、無いとしてもだ。しかし、逆に、オベル王自らが、お前をリーダーとして恭順の意を示せば、彼らも納得しよう」
キカは続ける。
「お前は元ラズリルの騎士でも、今は追放された身。・・・・・・根無し草のようなものだ。群島の純粋な一員として、平等な立場にいるお前なら、群島をまとめ上げることもできるだろう」
キカは視線を落として、まっすぐ下ろされた彼の左手を見、少し躊躇しつつも、言う。
「それに、お前には力がある。一個艦隊を一瞬にして殲滅するほどの・・・・・・」
罰の紋章の強大なる力。それは、宿主の命と引き換えに。
「しかし、これらはみな、大人の都合だ・・・・・・」
キカは言った。
「お前自身はどうなんだ?」
キカは尋ねる。
「お前が群島を守るために戦うのは分かる。紋章を使ってまでオベルを守った、お前の、群島を思う強い気持ちも知っている。けれど、それとは話が違う。リーダーになるということは、大きな責任を負うということだ。そして、人は強い意志をもった人間にしか付いてはこない。人の上に立つ人間は、人々の思いを受け止め、答えていかなくてはならない。時に私は、お前は状況に流されているようにも感じてしまうのだ・・・・・・」
キカは少年の顔を見る。
「この船の真のリーダーとなる。それは、お前の意思か?」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうだ?」
彼女は少し首を傾けて、少年に再び尋ねる。その声に、責めるような風はない。
少年は、口を開いた。
「・・・・・・自分には、リーダーになる資格はないと思っていました」
うつむきがちに、彼は言った。
「リーダーの器ではない、と。だから、オベル王から船を任された時、嬉しく思いましたが、ひどく買い被り過ぎだとも思いました」
海に視線を流した。
「自分は、そういう人間では決してない」
光のない真っ暗な海は、どこまでも遠くまで、広がっている・・・・・・。
「でも今は、どの国にも、どの組織にも属さず、何も持たない、自分だからこそ出来ることがあるんだと思っています。群島の一員として」
左腕を曲げ、黒い手袋をはめた左手を見る。
「・・・・・・この紋章で役にたてるなら。群島を守る力となれるなら」
顔を、上げた。
「みんなのために、自分が出来ることをしたい」
曇りのないまっすぐな目で、キカに答えた。
「リーダーになります」
「・・・・・・そうか・・・・・・」
キカは呟いてから、言う。
「お前の覚悟のほどは分かった。ならば、私もお前に協力を惜しまない」
片手を腰にあて、キカは夜空を見上げた。月の無い空には、無数の星々が光り、この上もなく美しく輝いている。強い光を放つ星もあれば、鈍く弱弱しい星もある。中には、流れていく星や、群れから外れて、一人輝く星もある。このような、違う、多種多様な星々から、この夜空の美しさは成り立っている。
(我々は、この星のようなものかもしれん)
この船に乗り合わせた者達は、各々の運命を背負い、其々の役割を担う。
そして、これからの旅で出会うであろう、様々な星々。
北に輝く、北斗の星よ。海を行く我々に、進むべき道を示せ・・・・・・。
キカは再び、少年に目を向けた。
「余計なお世話かもしれぬが、共に戦う同士として、言わせてもらおう」
少年もキカと顔をあわせる。
「お前は力み過ぎる。体をもっと大切にしろ」
彼女は立つ重心をかえ、腰にさした反身の双剣がガチャと鳴った。
「もっと、周りに甘えろ。全てをお前が背負い込むことはないんだ」
少年は躊躇せず、罰の紋章を使う。まるで、自分など、どうなってしまっても構わないように。
(・・・・・・アイツもそうだった・・・・・・)
何を話すこともなく、ブランドは海に去った。
「お前は一人ではない。お前を慕う者達のことを、決して忘れるな」
彼女のぶっきらぼうで強い調子の声の中に、彼女の気持ちを感じ取った少年は、うっすら微笑んでみせた。
「話は以上だ。・・・・・・今宵は、私の船に戻る」
「わかりました・・・・・・」
二人の部下を待たせている、甲板のドアに向かって、キカは歩き出した。その後ろから、声がかかる。
「お休みなさい」
キカは振り返る。こちらを向く少年の顔は、ランプの影に隠れている。
「ああ。・・・・・・お休み・・・・・・」
スノウはいいなあ。
スノウのパパは、スノウがなにをしても、ゆるしてくれる。
すきでいてくれる。
パパって、そんなものなのかな?
がんばらなくても、ボクをボクとみとめてくれる。
ボクは、・・・・・・あいされたいんだ。
END
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