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幻想水滸伝4 短編小説・目次




 恋山海戦 KOIYAMA KAISEN  <1>

幻想水滸伝4 テッド


 「右の紋章の方は、やめてくれ」
 ウォーロックの気難しい目が、鼻にかけた小さい眼鏡の向こうからギョロリと睨みつける。
(言われずとも)
 と、テッドは黙って、左手にソレを持ちかえる。紋章砲の砲弾。取り難い場所にあったので、単に右手を伸ばして引き寄せただけ。それに、こっちは急いでるんだ!
 台に固定した紋章弾の上に、手袋をした左手を載せる。スゥと呼吸を整えて意識を集中し、魔力をそれに注ぎ込む。水の紋章の青い光が、手元で淡く輝く。ふっと、テッドの手から光が消えると、紋章弾は命を吹き込まれたように発光し、ガラスのような透明な球体の内部には、青い光のもやが、ゆっくり渦を巻いていた。
 側にいたパブロが、テッドの紋章弾を両手で持ち上げ、紋章砲の調整に余念のない師匠の背中に訊ねる。
「ウォーロック様。今すぐ、装弾致しますか?」
「未だ、いい。それなら、半時はもつ」
 老魔法使いは振り返ることなく、つっけんどんに答えた。
(大した魔力だ)
 と、パブロは紋章弾を元の場所に戻しながら感心する。紋章弾に宿された魔力は次第に外に流れ出て、普通はすぐに失われてしまうが、彼の魔力は減っても尚、十分に満ちている。
(これで、封印球のように、魔力を完全に封じ込められるようになったら・・・・・・)
 此処に来て、パブロの研究欲は深まる一方だが、師匠は相変わらず、紋章砲についてだけは、何も教えて下さらないのが残念だ。
「じゃ、俺はこれで、」
 戦いを控える制御室の面々に、テッドはぼそりと告げ、踵を返し、慌しくドアの外へ出て行った。
「彼の右手の紋章。紋章砲にしたら、どれだけの威力があるんでしょうかね」
 紋章砲の準備に忙しく立ち振る舞いながら、パブロは恐る恐る、内心、興味津々に訊く。
 レンズ状の砲門をチェックしながら。ウォーロックは無言。
「真の死神の降臨、・・・・・・と言ったところかしら」
 凛とした涼やかな声。ジーンが横から口を挟んだ。彼女は雷の紋章の砲手として待機中。
 細い腰に白い手をあて、悩ましげに体をくねらせ、こちらに甘美な視線を投げかけている。口元に浮かべる、魅惑的で、妖艶なる微笑。
 ・・・・・・ふふ、・・・・・・。
 美しく豊満な肢体を惜しげもなく、さらけ出して、他に類をみない美貌を誇り、彼女は恐ろしいまでに強い魔力の持ち主でもある。
「はあ・・・・・・」
 何とも気の抜けたパブロの返答である。
(まったく、目の遣り場に困る女性だ。それに、・・・・・・寒くないのか?)


 第五甲板の長い廊下を、テッドはダッシュで駆け抜けた。
 木の階段を駆け上がり、途中、丸い覗き窓に張り付いて、戦況を確認する。
 此処から、未だかなり遠い海。一筋の煙りが立ち昇る、味方の船が一隻。その近くに付けた船と、まさに近くに迫ろうとする船は、帆は赤、共に敵の船。その船の側面が光を放ち、紋章砲の発射態勢。大きな爆音が轟いた後に、青い光が、水の紋章砲だ、長い長い尾をひいて、成す術も無く、味方の船の舳先に命中する。黒い煙がのぼり、船の一部が海に吹き飛ばされる。
(ちくしょう!!)
 テッドは窓から離れ、再び走り出す。階段を上へ上へと昇り、そして、ブリッジに向かわんとする、エレノアとアグネスにバッタリ遭遇した。
「このバカ軍師!」
 いきなりテッドは、乱暴に大声を張り上げた。
「何故、代わりの砲手を置かなかった!アイツだって、もっとマシな編成を組む!」
 108星を統べるリーダーは、何人かの仲間を連れて遠征中。
 留守を預かる軍師は、テッドの激しい剣幕に顔色一つ変えず、グビリと酒を喉に注ぎこむ。
「あの船は、アンタに任せてたはずだ。勝手な我がままで、あの船を降りてきたのは、どこのどいつだったかい」
 軍師はフンと笑って、余裕の態で、白磁の酒瓶をテッドに向ける。
(くっ・・・・・・!)
 テッドは言葉に詰まる。言い返すことなく、二人の間を通り抜け、先を急ぐ。
「なんなの!エレノア様に、あんな口をきくなんて!」
 顔をプンプン赤くして、いたく憤慨するアグネスに、エレノアは呵呵と笑った。
「なかなか、アイツも言うじゃないか!」
 また、一口、酒を飲む。
「アイツには、いい薬になっただろうよ・・・・・・」
 一心に階段を駆け上がる、テッドを見届けたエレノアは、酒瓶の中で揺れる黒い液面に目を細める。
(もう、お前は、『お客様』じゃあ、ないんだからね)
 そして、アグネスの方に向き直った。
「アグネス!艦長を至急、ジャンゴに変えな。・・・・・・なあに、ナレオの船は機動力はないが、しぶとい!」
 アグネスは目を輝かせて、元気に言う。
「はい!」
「さあ、あたし達も行くよ!」
 威勢良く、愛弟子を後ろに付き従え、酔いどれ軍師は酒瓶を振り上げた。


「ビッキー!」
「はい?」
 自分を呼んだ鬼気迫る叫び声に、彼女は素っ頓狂な返事をして、ひょいと振り返れば、向こうからテッドがやって来る。一生懸命走りながら、しかも、もの凄い形相で。彼女の元にたどり着いた時、テッドは、ハアハアハアハア苦しく息をあげていた。
「どうしました?」
 と、首をかしげて、緑色の大きな目をぐりぐりさせて、ビッキーは声を掛ける。
(めずらしいですね。くーるなテッドさんが、こんなに取り乱してるなんて)
「ビッキー!俺をナレオの船にテレポートさせてくれ!」
「え?」
「早く!」
 テッドは訴えるように、喰らいつく。
「で、でも、・・・・・・」
 ビッキーはおろおろと海を。青空が広がる甲板の上から見えるのは、紋章砲が飛び交う、今まさに激しい海戦の模様。
「ナレオさんの船は、今、攻撃を受けている最中で・・・・・・」
「構わない。頼む」
「・・・・・・それに、船から船にテレポートした事はありませんし、成功するかどうか、」
「俺の魔力でカバーする。やってくれ!」
「で、でも、・・・・・・」
 ぐわし。と、テッドはビッキーの両肩を掴んだ。
「早く!」
(このヒト、ほんきだわ。)
 テッドのまっすぐでひたむきな視線は、ビッキーの小さな胸にアツイ火を付けた。
「わかりました。やってみます!」
 ビッキーは、きゅっと可愛い口を結んで、うわわわワンドを両手で強く握り締める。
 甲板には白兵戦に備えた力自慢の面々が、掛け声を発して拳を突き出し足を上げ、二抵の斧をぶん回して、体を馴らしていた。彼らの脇から、声が上がる。
「ビッキーさん。制御室に来てくださいッス!!」
 一方、魔力をためて、「いきますよ!」とのビッキーの合図に、テッドはコクンとうなづいた。
「えいっ!!」

 一瞬、世界が白くなり、すぐに、黒い煙に取り囲まれた。
 焦げ臭い。その先に、マストの一本が折れ、帆布が裂け、無残に破壊された姿が広がる。
 それでも、これは見覚えのある白い帆布。
 テレポートは見事成功。但し、階段五段分ぐらい宙に浮いているのは、ご愛嬌。重力による自然落下に任せて。ストン、とテッドは着地する。
(ナイス、ビッキー!)
 テッドはごった返す人込みの中へ、駆け出していく。



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