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嵐に遭ったのは幸いだった。ある意味で。僕を地獄から解放してくれたのだから。
アイツラがどうなったかなんて、知らない。ただ、無我夢中に僕は大破した船の残骸にしがみつき、狂った大波がアイツラの影を呑み込んだのを見た、・・・・・・気がする。
僕を傷付け、苦しめ続けたアイツラ。海は遂に邪悪な海賊達を罰し、暗闇に繋ぎ止められた僕を、一人助けてくれたのだろうか。
堕ちるところまで堕ちて、僕は救われた?
いや。もっともっと苦しめということだ。飢え、渇き、恐怖、絶望、そして、永遠の孤独。
命の灯が消える、最後の最後まで・・・・・・。
商船か漁船か。遠くに、そう大きくはない船が見えると、スノウはすぐに体を起き上げ、そちらに手を振った。けれど、船は去ってしまった。
手を降ろし、彼はうなだれる。
(モンスターの出る海域なんだ。先を急ぐのは当たり前さ。)
そして、ふと冷静になり、ある事に気付く。
(どんな船か分からないのに、手を振るなんて。)
また、あんな野蛮な海賊だったら、どうするんだ。クールークの船だったら。ラズリルも、だめだ。
それに、あいつの仲間の船だったら・・・・・・。
船を見つけた途端、体は無意識に動いた。
(未だ、「生」に未練があるんだ。)
彼はぼんやりと、そんなことを考え、再び、波に漂う、ちっぽけで汚れた木の板の上に、重い体を横たえた。
仰向けになって。嗚呼、恨めしいのは、この青空。昨晩の嵐が嘘のように晴れ渡る。
所々、破れ擦り切れたボロ服はカラカラに乾いてくれても、喉が乾く。ひどく乾く。せめて、雨だけでも降ってくれれば。
(・・・・・・君もこんな気持ちを味わったのかい)
かつての親友の姿が否応なしに浮かんだ。
(僕のことを、きっと心から恨んだだろうね。)
しかし、君は、「仲間になろう」なんて、言ったんだ。どんな気持ちで、僕にそんな言葉を言えたんだ。本当は許したくなかったくせに!!!
君はいつだって、そうだ。何も怒らず、何も言わず、ただ黙って。じっと、僕の顔を見詰めるだけなんだ。
ただじっと!
・・・・・・悲しそうな目で。
(流刑船で流されるなんて、思っていなかったんだよ。)
強い日差しに晒された顔を、彼は両手で覆った。
(これは本当だよ。父上は、違う島に追放するとしか、僕に言わなかったんだ)
狭苦しい板の上で、スノウは静かに寝返りした。
凪いだ海であっても、波に揺らされるのは、とても気持ち悪かった。
(皆は知らないかもしれないけど。あれで結構、子供の時は、ケラケラ笑っていたんだぜ)
ザクザク、と、緑の大地を踏みしめる音がする。暖かく、柔らかな風が、彼の髪を揺らしていた。鳥の声がして、木漏れ日の下で。
此処は、ラズリル。
手に握る剣は、自分には未だちょっと大きい。
僕は子供だ。
傍らにいる君に、父上から初めてもらった剣を得意気に自慢している。仕事途中の君は、焚き木の束を抱き締めて、物珍しそうにしている。
僕は重い剣を一生懸命に持ち上げた。そして振り下ろした。重さにつられて、剣を落としただけかもね。そんな他愛もないことだったけど、隣の君は目を輝かせて、こう言った。
「わあ、すごいね。スノウ!」
父上。僕には優しかった父上。手招きをして、僕を呼んでいる。微笑んでいる。
僕は鎧に身を包み、騎士団の中心にいる。
腕組みをして、部下達に指示を与えている。
騎士団の広場では、剣と剣が合わさる音が響き、訓練に励んでいる。騎士団の皆が談笑している。
何てことだ。何一つ変わっていないじゃないか。
ラズリルの街は、何一つ変わってはいない!穏やかで、豊かで活気に満ちている港町。賑やかな声が溢れている。
皆、ラズリルにいる。幸せそうに笑っている。
でも、でも、僕は。
僕は、どこにもいない。
どれくらい、眠っていたのか。太陽は未だ空の高みにある。ほんの少し、うたた寝をしていただけかもしれない。何も無い、大海原の真っ只中では、東も西も分からない。
目元にうっすらと涙が滲んでいた。
(未だ水分が残ってたか。)
彼は指でそれを拭い、ペロリと舐めた。生暖かく、少し、しょっぱかった。
海の彼方に、動く船が霞んでいた。先程より大きい。
でも、彼が起き上がることはなかった。
(眠い・・・・・・。)
彼はすがりつくように、小さくした体を、木の板でうつぶせになる。
(もし、僕の罪が許されるのなら。)
目を閉じて、スノウは思った。
君に会いたい。そして、君に心から謝って。そして、そして・・・。
一つだけ聞きたいことがあるんだ。
僕と一緒にいた時。君は不幸せだった?
END
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