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幻想水滸伝短編小説・目次


 深層海流 1
幻想水滸伝4 4主+テッド

 
 テッドは驚いた。よもや、この彼が、自分にこんな告白をしてくるとは。
 そして、沈黙。返答に窮する。隣の彼の様子は、空気で感じ取れる。
 こんな事を突然言われて、どう言ってやるべきか?
 自分のことを話さない彼からは、それ以上の情報を聞き出せそうもないし、だからといって、彼が初めて見せた「弱み」に対して、生半可な返事をするわけにもいかない。
 しかし、まるで、夜の闇に溶け込んでしまったように、それっきり、だんまりしてしまった彼を感じると、この場合、「聞いてやるだけ」も一つの選択肢ではないか、とも思えてくる。
 「テッドは行かないのか」と、思い出したように、彼の方から口を開いたので、「ちょっと、顔はだしたよ」とテッドは答える。そして、いたずらっぽく、逆に尋ねてみる。
「お前の方こそ。主人公が。オベルを解放した英雄が、こんなとこにいて、いいのか?」
 彼は黙ってしまう。

 今宵は宴。オベルの解放と勝利を祝んや。王宮前の広場は祝宴のメイン会場となり、たくさんの屋台が立ち並ぶ。王族、平民、入り乱れての無礼講。飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎが繰り広がる。
 料理人は食の競演、郷土色溢れる、美味に舌鼓をうち。吟遊詩人は高らかに、戦いの詩を謳いあげる。人魚が作った珍しいアクセサリーや交易品、掘り出し物に人々は目をみはり、民が持ち込むお宝にうーんとうなる鑑定人。射的ごっこに熱中する少年達の横では、占いの結果に少女達がキャアキャアする。王の計らい、福引きも、今日の所は大判振る舞いだ。そして、一攫千金、夢追い人は、ここぞとばかりに、ポッチが飛び交う。
 船の甲板の手すりに両ひじをくっつけて、体をもたれかけていたテッドは、ちょっと呆れた風に言う。
「オベルの王が、あの格好で騒いでたな。・・・・・・おっさん、やるよな・・・・・・」
 宴の前、リーダーの彼はオベルの王に引っ張られ、押され押されて、壇上に立った。眼前には、彼の登場を待ちかねていた、オベルの民と仲間達。どっと大きな歓声と拍手が沸きあがる。彼は二言三言、五言ぐらいは頑張って、短く簡単で、心のこもった挨拶をして。祭りは始まった。
 それを物陰から見届けたテッドは、そっと抜け出し、船に戻ってきていた。
 王宮のある高台の頂上は明々と輝き、提灯が作る光の道は、丘を下った、港の船着場へと続いている。テッドはそれを、じっと見詰めながら言う。
「・・・・・・今まで、祭りの灯りを見ることすらなかったよ・・・・・・」
 (寂しくなるから)
 と、テッドは心でつぶやき、眩しそうに目を細めた。
「こういうのもイイもんだな・・・・・・」
 暗黒の虚空を照らす、暖かい、祭りの光よ。

(彼は何故いきなり、あんなことを言い出したのか?)
 真っ最中の楽しいはずの祭りから逃げ出して、とテッドは思う。
「お前、もしかしたら、本当は未だ具合が悪いのか?」
 顔だけを彼の方に向けて、眉をしかめたテッドは問うた。
「辛いんだったら、こんなとこいないで、早く部屋に戻って休めよ。何も、無理して起きてくることはないんだ」
 自爆船から仲間と船を守るため、彼は罰の紋章をつかった。そして、倒れた。オベル奪還の祝宴は、寝込んでしまった彼が起きるのを待って催されている。
 彼のために祝宴を遅らせたことを、彼が気にして、平気な素振りをしているのではないか、と、テッドはついつい勘ぐってしまう。いつも、彼はそうだからだ。大丈夫、大丈夫、と言って、我慢して黙って、ついにバタンと倒れる。辛いのに辛いと言わず。イタイのにイタイと言わず。平気で自分を犠牲にできる。だから、心配なのだ。
「もう、大丈夫だよ」
 と、彼は彼なりの笑顔をもって、返答する。
「ありがとう。・・・・・・ちょっと、海が見たかったんだ」
「夜の海を?」
「うん」
 何も見えないぞ、と言いたげな仕草のテッドに。
「好きなんだ。・・・・・・夜の海・・・・・・」
 何も無い、暗い、夜の海が。

「・・・・・・夢を見たよ・・・・・・」
 彼は、ぽつりと呟いた。紋章の力を解放して寝込んでいた時、と。
「ラズリルの騎士団にいた頃の団長が。・・・・・・『強くなった』と言ってくれたんだ・・・・・・」
 親に誉められた幼子がそうするように。何とも嬉しそうな、はにかんだ表情を一時浮かべた彼が、テッドには意外に思えた。すぐに消えて、いつもの感情の読めない顔に戻ってしまったけれど。
 団長殺しの無実の罪から、彼の旅は始まったと聞く。そうならば、それは忘れたい、苦い記憶となってもいいものを。『団長』は、どうやら彼にとっては、かけがいの無い大切な思い出であるらしいのだ。
 彼を流刑にした副団長も、この船に乗る。全く、お人良しだ。
 無実の罪を着せたという人間は、その後、どうなっているのだろう?

「さっきの話だけど、・・・・・・」
 と、テッドは切り出す。
「この戦いが終わったら、ラズリルに帰らないのか?ラズリルには、お前の帰りを待ってる奴らがたくさんいるだろ。ヒーローのご帰還だしな」
 明るく、テッドは続ける。
「それに、オベルもいいだろ。リノのおっさんが、お前を後継者にしたい、って話も、まんざら冗談じゃあない」
 と、テッドは一通り言ってから、アホなこと言ったと思った。
 こいつは、そんな事を望む奴ではない。
 だが、彼の潔さときたら。
 彼には将来の夢だとか希望だとか目標だとか、生に執着するようなものがないのだろうか。
「・・・・・・ラズリルには、多分、帰らないと思う」
 彼は答える。
「もう、・・・・・・いない、から・・・・・・」
 何がいないのか、声が小さ過ぎて、テッドにはよく聞き取れなかった。

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