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幻想水滸伝短編小説・目次



 
 霧の邂逅
幻想水滸伝4 テッド


 船長が言うには、黒づくめの少年が、「彼」、らしい。そんな事言われずとも、あの赤いハチマキをしているのが「彼」だなんて、すぐに分かるもんだ。 忌ま忌ましい紋章の気配。・・・・・・吐気がする。よくよく、知っているものだ。

 テッドはさらに望遠鏡のピントを合わす。巨大な船の甲板の隅っこに、一人ぼっちで佇んでいる彼。そして、彼の観察の継続。
 若いもんだなあ、と。半ズボンなんて穿いてる。「本当の」少年、だねえ・・・・・・(と、テッドは含み笑いをした)。年は十五、十四?軍のリーダーをやるぐらいなのだから、そう年若くはないと思うけれど。一見、細くて、華奢な体付きをしているので、実際よりも若くみられるのかもしれない。
 焦げ茶色っぽい髪で、前は目を隠すように下ろされている。キレイ。でも、ツンとすました無愛想な顔。
(不幸ヅラしてる)
 と、テッドは何気なく思いついて、ふと笑った。
 これこそ紋章の宿主だ。陽気に大声で笑うところなんて、とても想像もつかない。きゅっとしめられた口は、沈黙を愛するように思えるし、感情の読めない顔、全体的に近寄り難い空気。単刀直入であれば、暗い。
 この世の不幸を一身に背負ったような姿だ。
 初めて見た同類の様子を、一通り、面白可笑しく観察してから、テッドは急に何とも嫌な気持ちに襲われた。不愉快、とでもいうか。腑におちない。ムカムカする。もちろん、
(同情なんかじゃないさ・・・・・・)

 彼とは別の人間が、テッドの視界に登場する。明るい小麦色の長い髪をなびかせた、若い女だ。派手な、赤い海賊服。海を見ていた彼は振り返り、彼女と顔を合わす。二言、三言話してから、女は踵を返し歩き出した。その後ろを、部下らしき二人の青年がついていった。
 彼女達が消えた甲板のドアから、今度は、黄色い服の少年が二人、いや、一人はどうやら少女のようだ、飛び出てきた。先程の場所から動いていない彼が、そこにいることに気付くと、二人は軽く頭を下げて挨拶し、さらに甲板の端を目指して走っていった。一目散に。
 出航前の慌しさだ。急に、わらわらと乗組員が姿を現して、マストの準備やらをしだす。

 彼はそんな喧騒とは無縁に、未だ、そこにいて、手すりに左腕を預けて、青い海の彼方ばかりに興味があるようだった。
 その彼を後ろから、思いきりどついた。黒いぼさぼさ髪の男が。背が高く、ガタイのイイ、ふらりと白いシャツを着た男(腰に剣を差しているが、この男も騎士なのだろうか?)
 しかし、大きくよろめいた彼は、全く動じていなかった。そんな乱暴な扱いが、まるで日常茶飯事のように。彼らの方に、平然と体を向き直したのだ。
 彼ら。その男の他に、落ち着いた風貌をしている青年と、耳の尖った、エルフの若い女。よく、エルフが人間と一緒にいるもんだ。そして、白い髪に、額の三角の印は、ナ・ナルの女だろう。この女が、彼に凄い勢いで話しまくっている。一方的に。満面の笑顔で。
 そして、調子良く、身振り手振りで話を続ける彼女の隣の男、彼をどついたヤツより大人びた様子のもう一人の男だ、が、横から何かを口にはさんだ。
 途端に彼女は、「ええ!」と見事に驚いた顔に変化して、一同がどっと、肩を揺らして笑った。素っ気無いことで有名なエルフの女さえも、目を細めている。・・・・・・彼も笑ったみたいだ。後姿でよく分からないけれど。笑っただろう彼のことを咎めるように、顔を真っ赤にしたナ・ナルの女は口をとがらせて、彼の肩をちょっとこづいて抗議していた。

 巨大な船が大海原に滑り始める。港の側の、崖の上にいたテッドから、船は徐々に遠ざかっていく。望遠鏡の中の彼の姿も小さくなっていく。
 四人の仲間に囲まれたまま。
 それが最後。
 テッドは、望遠鏡をおろした。ふうと、大きな溜息をついた。
 沖にでた巨大な船は点となり、何艘もの仲間の船がそれに従っていくのだ。
 ふう。
 もう一度、テッドは大きく溜息をついた。
 雲の無い青空。穏やかな青い海。今日は本当に天気が良い。
 それが異様に、テッドには腹立たしく思えてきた。
(・・・・・・アイツは、苦しんでいるに決まっているんだ・・・・・・)
 テッドは、心の中でつぶやいた。
 
 リーダーなんて、やっているのも、紋章の力をイイように利用されているだけだ。現に何度も紋章の力を解放させられて、死にかけたと聞く。本当の仲間だったら、そんな事させるわけないじゃないか。彼は、都合よく、使われているだけさ。
 仲間なんてありえない。ましてや、友達なんてありえない。普通の人間に、一体、彼の何が分かるというのだ。見せかけの表面上のつきあい。真の理解なんて絶対的に不可能。
 宿主の命を喰らう紋章。呪われた紋章。恐ろしいに決まっている。自分の運命を呪っているに違いない。
 この俺と同じように。
 そんな紋章を持って、決して、幸せになんてなれるわけがないんだ!!!

 テッドの頬に、白い霞がふれた。気が付けば、港は白い霧で覆われていた。太陽の光を隠し。全てを包み込むように、重苦しい不気味な霧は、静かに、彼の船が去っていった海へと触手をのばしていく。
 頭の中に、ずかずかと図々しく直接伝わってくる声の主に、テッドは答えた。恐ろしく冷たい声を掛けられるのにも、もう慣れている。テッドは、うっすらと微笑みさえ浮かべたのだった。
「いいよ、船長。用意はできた」

END