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幻想水滸伝短編小説・目次

 ダメ。

幻想水滸伝4 スノウ


「これからは、坊ちゃんなんて言っちゃダメだぞ」
 少年は両手を腰にあて胸を張り言った。
「スノウ、だけでいいよ」
 豪華な子供服を着たスノウとは対照的に、幾らでも汚れてもいいようなボロ服を着た少年は、こくりと頷く。
「明日から無人島かあ。本当に、楽しみだねえ」
 少年達は二人揃って、森の小道を歩く。青空。気持ち良い、そよ風が吹く。日差しが眩しい。
「僕、テントで寝るなんて初めてだよ。無人島で見る星空って、キレイだろうね」
 未だ見習いにも認められない若年の子供達から結成される、ラズリル少年騎士団。その夏の恒例行事、「無人島でのお泊り会」(と、スノウは主張するが実際はサバイバルだ)が明日から始まる。
「皆で釣りをして焼いて食べるんだってさ。釣れなかったら、ご飯は無しだって。・・・・・・でも、大丈夫。君が釣れなくても、僕のを分けてあげるから」
 意気揚々と歩くスノウの後ろから、一歩だけ退いて、トコトコとボロ服の少年はついていく。
「君も一緒に参加するんだから、皆の前でも、ちゃんとスノウって呼ぶんだよ」
 少年は、はつらつと歩くスノウの後ろ姿を、横目でチラリと見た。

 そのスノウの足がピタリと止まった。キラキラ輝く木々の緑を眺めながら歩いていた少年も、スノウの異変に気付く。スノウは体を硬直させて、行く道の前方を一心不乱に睨んでいた。
「スノウ坊ちゃん」
 と呼びかけ、少年は、「どうしました?」と普通に尋ねる。
 ちょっとばかり長い沈黙の後、スノウはうなるような声を漏らす。
「・・・・・・ハチ」
 スノウは右の手で前を指差しながら、言う。
「・・・・・・ハチ、・・・・・・ハチがいる!」
 果たして、前方、道沿いに延々と植えられた薔薇の生垣で彩られた、森からスノウの御屋敷へと続く小道のど真ん中に、一匹の蜂がブンブン飛んでいた。
「アレは、スズメ蜂かもしれない・・・・・・。刺されると、すごくイタイんだ。下手すると、死んじゃうんだよ」
 スノウはこの世の終わりのような顔をして、少年に教えてあげる。
「大丈夫、大丈夫。僕がいるから」
 スノウは少年にぴったりと近付き、少年の肩に手をあてる。
「怖くない、怖くない・・・・・・。何もしなきゃ、刺さないんだから・・・・・・」
 少年の肩を、痛いくらいに、ギュウと強く握り締めた。
 ハチが斜め上方に、わずかに移動した。
「キョワア!」
 甲高い悲鳴をスノウは一瞬、あげた。
 そして、ハチは突然、こちらに向かってきた。

「うわああああああ!」
 少年の体が宙に吹っ飛んだ。そのまま、物凄い勢いで、横の草むらの中に突っ込む。
 一方、大きな叫び声をだし、少年を思い切り突き飛ばした張本人であるスノウは、両腕をむやみやたらに振り回し。
 逃げた。
 猛烈な勢いで、元来た道の方へ。
 少年は、その場でゴロンと仰向けになって、長い草の合間から、青い空を見上げながら思った。
(イタイ)
 左の足首がズキズキする。草むらに突っ込まれた時、足をくじいてしまったようだ。
(今日は、フンギと、まんじゅうを作る約束だったんだけど)
 とか、これからの予定を変更せざるをえないこと等を考えてみる。

 スノウが戻ってきた。そこにはもう、強大な敵がすでにいなくなっていることを確認した。
「ハチは僕を追ってきたみたいだね。僕は、追い放したよ・・・・・・」
 えらく神妙な面持ちでスノウは、つぶやいた。そして、草むらに押し倒された少年に、手を差し伸べる。
「僕が君を隠したおかげで、大丈夫だったね」
 得意満面の笑顔で。
 しかし、スノウの手に腕を伸ばした少年は、立ち上がることが出来なかった。くじいた左足と。右足の膝っ小僧から、うっすらと血が滲んでいた。
「どうしたんだい!ち、血が出てるじゃないか!」
 スノウは慌てふためいて、叫ぶ。そして屈んで、少年に小さな背中を向けた。
「早くしないと!傷口からバイキンが入っちゃうよ!」
 僕に乗れ、ということである。
 少年は痛む足に無理矢理力を入れ、スノウに飛びついた。よいしょっと、少年よりも一回り大きいスノウは、少年を軽々とおんぶした。スノウの御屋敷へと歩き出した。
「ありがとう」
 少年はぽそりと言った。
「・・・・・・スノウ」
「うん」
 と、スノウは答える。

 それにしても。
(あれは、タダのミツバチだよ)
 少年はスノウに教えてあげようかどうか悩んだ。が、すぐに、言わないことにした。
(無人島には、虫なんて、いっぱい、いるんだよ)
 少年のしている赤いハチマキが、歩く振動に合わせて、微かに揺れる。
(こんな調子で、大丈夫かしら)
 森の中で、テントの中で、あらゆる所で、虫と出会って真っ赤な顔をしてうろたえる、スノウの姿が容易に浮かぶ。
 気付かれないように、少年はいつもの如く、器用に小さい吐息をつき、スノウの首元にちょこんと小さな頭をのせた。
 良い匂いがする。
 ほっぺを首元にくっつけて、目をつむる。

 本当に、スノウは。
 僕がいなきゃ、
 ダメ。


END