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幻想水滸伝4 短編小説・目次



 雪兎 1

幻想水滸伝4 スノウ+4主


 この船の仲間になった時に着ていた服を、僕は着続けている。
 青空の下の甲板の上で、僕は戯れに君に質問する。
「どうだい、僕のこの服、似合ってるかな?」
 君は君がよくするように、首を少し傾け、僕の顔をのぞきこむ上目遣い。
 ちょっと困ったような顔つきをして、言う。
「・・・・・・ぜんぜん、ダメかも」



「ようこそ、スノウさん!これでもう、着たきりスズメとはおさらばですよ」
 仕立屋フィルが、両手を広げてスノウを迎えいれる。頼んでおいた服が出来上がったということで、受け取りに、フィルの店にやってきた時。
「たくさん服を注文してもらいまして。腕の奮いがいがありました!」
 フィルは机で整理していた伝票らしき紙を引き出しにしまい、たくさん服が吊された中をかきわけ、いそいそと奥に向かう。
「さ、どうぞどうぞ、中へ。最後の仕上げをしますからね」
 スノウも続く。カーテンを開け、こじんまりとした部屋に入る。部屋の両壁には服がいくつかハンガーに掛けられている。縫い掛けの洋服を着る、首と腕のない上半身だけのマネキン。色とりどりの布や糸が箱の中に納められ重ねられ、針山やハサミ、定規、こざっぱり整頓された広いフィルの作業台。
 スノウはジュータンの手前で靴を脱ぎ、フィルの指示通りに服を脱ぎ始める。フィルは抱えてきた縫い終えたばかりの服を、どさりと台の上に落とし、スタンドミラーをスノウの前にセット。
 作業台に物を取りに行き、慌ただしく準備に部屋を移動しながら、フィルが声をかける。
「随分と痩せられましたね」
「・・・・・・分かりますか?」
 下着一枚のスノウの全身が鏡に映る。
「ええ。預かった服のサイズよりも、数回り小さくなりましたから。私が言うのもあれですけど、もうちょっと栄養つけてもいいかもしれませんよ!」
 フィルが明るく言った提案に、スノウは軽く笑って、
「ここの料理は美味しいから。すぐ、元通りですよ」
「さ。それでは、まず、これからどうぞ」
 用意を終えたフィルが、真新しい服をスノウに差し出した。受け取った服を見て、スノウは目を大きく見開く。一瞬、ためらい、しかし、鏡に映った背後に立つフィルのニコニコ顔が目に入り、袖に腕をとおす。
「うん。大丈夫ですね」
 フィルは服のサイズを全身くまなく確認し、頷いた。
「やっぱり、スノウさんの髪には緑が映えますねえ」
 貴族服を着たスノウを眺めて、フィルはほれぼれとする。
「フィルさん。この服は・・・・・・」
「このデザインにしてくれと、服を渡されたんですよ。・・・ちょっと見てみます?」
 フィルはその場を離れ、すぐに大きな袋を持って戻ってきた。袋を床に置き、中から服を取りだして広げてみせる。
 色は褪せ、所々破れている。けれど、これは。
(海賊になると決めたあの時に、僕が海に捨てたラズリルの服だ・・・・・・)
「どうやら彼、網にかかった貴方の服を洗ってとっておいたらしいですよ。でも、流石にこれは着れませんよね」
 潮の匂いが、こちらにプンプンと漂ってくる。
「それで、この服を元に服を仕立てるように頼まれたんですよ。他にも、ありますよ」
 と、フィルが次々と取り出したのは、白い海賊服。ラズリルの騎士団の時のエンジの服。
 スノウは自分の昔の服が今此処にある不思議を、感慨深く思わずにはいられない。けれど、何だか胃がムカムカしてきた。きっと君に悪気は無いのだろう。けれども。
(・・・・・・君は一体、何を考えているんだい・・・・・・?)
 全て、これらは、僕が捨ててきたものなのに・・・・・・。

「こういうのも構わないんですけど。今度はデザインから作らせて頂ければ、ますます有り難いですね。スノウさんなら、フォーマルも着こなせますし。それでは、次の服も着てみましょうか?」
 フィルは海から引き上げられた服をズタ袋に突っ込んで、新しく作った白い海賊服を持ってきてスノウに渡した。
「・・・・・・服は人の内面を映しますからねえ」
 スノウが貴族服を脱ぎ、海賊服に着替えている間、フィルは手を動かしながら、世間話を始める。
「きちんとした服を着てらっしゃる方は内面もしっかりなさってますし、だらしない格好の方は中身もだらしない、ということです。自分によく似合う服を選べる方は、自分をよく知っている方ですね」
 フィルは大きな溜息をつく。
「といっても、この船の方達は、同じ服をずっと着続けている方が多くてね・・・。幾ら似合っているといえども、あれではね。毎日の生活に変化がでません」
(大体、リーダーから、ああだもんなあ)
 と、フィルは残念だ。毎日黒づくめ、・・・あれも似合っていることは似合っているが。たまには、もっとリーダーらしい服を着てくれても良いのに。この前頼まれたオベル王の正装。あのオベルのデザインで、彼の服を作ってみたら?リーダーにふさわしい威厳のある、華麗な服が作れるのになあ・・・。
 スノウが服を着替えたのに気付き、フィルはリーリンに作ってもらった特製の、皮のチョーカーをスノウの首にまわす。
「素材さえ揃えて頂ければ、私がお望みのままに服を仕立てさせて頂きます。そう、スノウさんからも伝えておいてくださいね!」
 フィルはスノウに強く念を押した。


 服の仕上げを終えたフィルは窓口の机に戻り、新しい服を綺麗に折り畳んで、紙に包んでいる。奥の部屋からスノウがでてきた。
「あれ、」
 後ろを振り返ったフィルの表情が曇った。
「着替えてしまったんですか?」
「あ、・・・・・・うん・・・・・・」
 眼鏡の下からのぞく悲しげな小さな瞳を見たくなくて、おんぼろ服のスノウは顔をそらした。
「あら。なんで、未だ、その服なの?」
 高い透き通った、明るい若い女性の声。
「ダンスをするのなら、新しい服でって、頼んでおいたはずなのに」
 明るい麦色のポニーテールを揺らし、フレアがスノウに近付く。いきなりの登場にスノウは面喰らい。
「・・・・・・ダンスって?」
「えっ?まさか、聞いてない?!」
 フレアが驚ければ、スノウはハタと思いつく。
「昨日戦闘中に倒れてから、今日は未だ、目を覚ましてないんだ」
「そう・・・・・・」
 フレアも同じように顔を暗くする。
「でも!とにかく、私に付き合ってくれないかしら?訓練所をラインホルトさんに無理矢理貸してもらっているの。早く、ダンスが出来る服に着替えて!訳は後で話すわ」
 フレアの有無を言わせぬ剣幕に、スノウは再び奥の部屋に戻る。


「ミドルポートの舞踏会に呼ばれたのよ」
 訓練所に着いてから、フレア。
「私は西洋風のダンスは、別に踊れなくてもいいと思ってるけど。でも、ラインバッハの領主殿は、はなから私が踊れないと思っているのよ。招待状にも、見ているだけで宜しいです、だなんて。そこで、私が颯爽とダンスを披露したら、面白いじゃない?」
 フレアがスノウにウィンクする。
「だから、貴方にダンスを教えて欲しいの。ダンスが上手だって聞いたから」
 コンコンと訓練所の扉を叩き、宮廷楽士が顔を出す。
「ありがとう。エチエンヌさん。宜しくね」
「喜んで」
 エチエンヌはニッと微笑み、立ち位置に立つ。自分の演奏が人の役にたてれば嬉しいのだ。
「じゃあ、どうしましょうか?私、少しは踊れるわ。昔、ちょっとだけだけど、習ったことがあるから」
「ブレかメヌエットか・・・・・・。簡単なステップを復習できるのにしようか」
「任せるわ」
 スノウがエチエンヌに舞曲の指定をする。
「なら、スカートの方が良かったね」
 いつもの動き易い服を着るフレアのズボンを見る。
「それは明日にするわ」
 フレアはさばさばと言って、貴族服のスノウに手を差し出した。
「じゃ。Shall we dance?」


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