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クールーク兵の攻撃を、テッドは素早く避けて、尚且つ、剣の腹に木の弓を合わせて打ち払った。しかし。
「だあありゃああああ!!」
ドスをきかせて、クールーク兵の右足が横から。猛烈なすねによる蹴りが、無防備なテッドの脇、腰まわりを直撃。
思い切り、テッドは蹴り飛ばされた。
軽い体は1m以上吹っ飛び、弓はその手からすっぽ抜けて、宙に放り出される。受身をとって地面に落ち、背で矢筒を踏みつつ、テッドは何度か回転。その勢いで、体を起こし、片膝をつく。
向こうから駆け寄るクールーク兵。迎え撃つべく、テッドはすぐに立ち上がる。が、悲しき哉、足と足がもつれて、
(ゲッ!)
後ろに転倒。尻餅をついたテッドに対し、クールーク兵は頭上から迫る。まさに振り下ろされようとする長剣。急ぎテッドは、手袋をした右の甲を敵に向ける。
(ソウルッ、)
紋章の力を解放しようとした、その時、大きな物体が目の前を通り過ぎる。敵の姿は視界から、あっという間に消えた。ぎゃあと野太い悲鳴の方を見れば、体当たりをしたアルドが、仰向けに倒れたクールーク兵を上から押さえ込んでいる。
血の付いた、懐刀をクールーク兵の喉元に・・・・・・。
ドン。
と、隙を付いて、クールーク兵がアルドの体を手で突き飛ばす。体を起こして、真っ赤に染まった右腕をかばいながら、全速力で駆け出していった。
こうして、クールーク兵の最後の一人が、森に逃げ去ると、アルドは溜まっていた息をふうと吐き出す。
白いボサ髪を逆立たせて、こちらに飛んで来たアクセルが吼える。
「おい!何で、止めをささなかったんだ!」
アルドが立ち上がって、振り返る。
「今の、わざと逃がしただろう!」
「敵であれ、命は粗末にすべきではありませんよ」
アルドは懐から取り出した布で、さらりと刀の血を拭き、白い木の鞘に納める。あちらには、もう二度と動かないクールーク兵が二人、地に伏す。
「出会いが悪かっただけです。違う出会いをしていれば、・・・・・・」
全く平然とした物言いに、アクセルはさらに熱くなって。
「あいつらは、平気で非戦闘員に手をかけられる奴らなんだぞ!」
「みんながみんな、そうとは限りませんよ」
「戦士に情けなんて、かける必要なんてない!」
「そうでしょうか?」
アルドは淡々と。
「逃げたから良かったが、あんな油断を見せて!反撃されたら、どうっ!」
「彼女はあの時、既に、戦意を喪失していました。あれは、生きるための必死の抵抗だったんですよ」
「それでもっ!・・・・・・!!彼女っ?!」
突拍子もない疑問符をつける。あんなゴツイのが?
「そうだったみたいですね・・・・・・」
さっきから、何かが気になっているように、そわそわと余所の方をチラチラ見るアルドの顔を、アクセルはまじまじと見る。
兜で顔も見えない、あんな短時間でこいつは見分けてたってことか?!
何とか、気を取り直して叫ぶ。
「逃がせば、また襲ってくる!!」
「腕の腱を断ってしまったから、剣はもう扱えないでしょう・・・・・・」
と、アルドは暗く沈んだ声で答えた。
同じく長身、目線の同じ相手。その二人の視線が不意にかち合った。
(この目!)
アクセルはアルドの『奇妙な』眼差しが、非常に苦手だ。切れ長で細い目は、静かで穏やかである。が、人の心の奥底を見透かすような、不気味さを感じもする。引きずり込まれそうな、底知れぬ深さがあるのだ。
思わず、目を反らしてしまった。そんな自分に気が付いてしまい、アクセルは愕然とする。
(この俺が、こんな野郎に言い負けた?!)
そして、すぐ側にもう一人、強いショックを受けている人物が。
(・・・・・・情けねえ・・・・・・)
地面に両足を伸ばしたまま、テッドはがくりとうなだれる。
(女に、・・・・・・蹴り飛ばされた・・・・・・)
近くには、矢筒から飛び出た矢が、やたらめったら散らばっている。ズボンを見れば、転がりまわったおかげで、土やら小石やら枯葉やら小枝やらが、くっついている。
アクセルがやっと黙ってくれると、アルドはテッドの元に一目散に向かう。
「テッド君!」
アクセルは、ふと思う。
(こいつ、態度が随分と違くないか。俺とガキと・・・・・・)
雨に濡れた子犬のように、しょんぼり座っているテッド。その側にあたふたと膝をつくアルドの姿を見て、ますます落ち込むのだった。
(・・・・・・こんな、ガキのケツ追っかけまわしてるヤツに、・・・・・・負けた・・・・・・?!)
「大丈夫かい!テッド君!」
アルドはおろおろして、じっとうつむいて固まってしまってるテッドの顔を覗き込む。
「どこか、ひどく痛むのかい?!」
ゆっくり顔をあげたテッドは、悲しくなるぐらいに、ボロッとしていた。
明るい茶っこい髪はぼさっとはねて、顔の所々に砂がついている。襟元がずれている、全体的に、服が乱れて汚れている。
アルドはそうすることが当然と、ポンポンと、テッドの肩や背中を優しく軽く叩いて、砂や埃を払い始める。
まるで、小さい子供にするように。
「俺に構うなって言ってるだろ!!」
テッドはカッとなって、アルドの腕を払った。つい大声を上げてしまい、目に入る、アルドの面食らった表情。
(また、やっちまった!)
テッドはすぐ様立ち上がって、脇目もふらずに歩き始める。自分の木の弓と矢のことなんて、すっかり忘れて。早く、一刻も早く、この場から離れてしまいたい。
(俺の人生、逃げてばっかりだっ)
どんどん後ろに流れていく両側の森の景色。十分遠くまで来たところで、テッドは道から少し森に入った木の根元に座り込む。
(痛ってえ・・・・・・)
蹴られた腰の辺りや、体のあちこちも、ずきずきと痛む。
テッドは身も心も、何だか疲れを感じるその体を、木にぐったり預けて、額をごちんこあてて、目をつぶる。
(・・・・・・ありがとうって、言おうと思ってたのに・・・・・・)
END
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