|
壊れた弓は、ただのゴミ。
と、その前に、不用意に伸ばしてきた敵の腕に、折れた弓の鋭い切っ先を突き刺す凶器としても使える、との事。
我先に捕まえんと欲を出した山賊は、あどけない、幼顔をした子供の思わぬ反撃に、血に濡れた手を押さえ、たじろぎ、仲間の元に戻る。
最後の役目を終えた弓は、地面に投げ捨てられた。
魔女の手下に取り囲まれ、唯一の武器さえも失った。しかし、子供はこんな事を考えている。
(バカなヤツら。弓を壊すなんて)
リーダー格の男が剣を振り上げて、大声で指示を出す。
一気に捕獲せよ。
剣は抜かれ、男達は四方から小さな子供に襲いかかる。
子供は手袋を脱ぎ、右腕を天に掲げた。
ソウルイーター!
敵の姿は一息に、テッドの体から放たれし暗黒の靄に呑み込まれた。その中央で、赤黒い光が禍々しき形をとる。
「キィー!キィー!キィー!」
辺りは、甲高い、おぞましい叫びに完全に支配された。それは、彼の地より招かれし亡者達の悲痛な鳴き声か。迫りくる死の恐怖に怯える者どもの悲鳴か。
死神が狂喜のダンスを踊る。闇の手が触れ、するりと魂を奪い去る。
パタリパタリと倒れていく。パタリパタリ。
テッドは紋章の力を制御できない。だから、「コイツ」は、ほどほどを知らず、たらふく平らげてしまう。
全ての命を喰い散らかすと、死の紋章は満足げに、ゲップした。
立ったままテッドは、転がる空っぽになった抜け殻などを眺める。外傷はなく、まるで眠っているようだ。
(俺は、こいつらに恨みはない。だけど、ここで捕まる訳にはいかない。弓がなくなれば、紋章を使うしかない。コイツを使えば、殺すしかない・・・・・・)
テッドは踵を返して、森の中に入る。ここも、もう安全ではない。騒ぎを聞きつけて、次の追手が来るのは確実。
早く逃げなくては。
(オマエのせいで、俺はこんな目に遭う)
テッドは自分の右手でコブシを作り、力を込める。
(だから、俺のために働け!)
腹を満たしたコイツは、得意そうに笑っているように感じるのだ。
ほうら、ワタシのおカゲで、タスカッタでしょう?
(オマエなんかに頼ってなんかない!!)
テッドは背負った矢筒から矢を取り、つがえる。
剣を合わせる敵と仲間との距離を計り、弓引き。
シュッと空気を切り裂き、狙い通りに、矢はクールーク兵の利き腕を射抜く。
再び、矢を取り、弦を引く。
不運にも、張った弦が切れた。
(チッ!)
テッドは壊れた弓を捨て、手袋をはめた右手を胸元に引き寄せる。
今は、テッドは紋章の力を制御できる。
(俺の言うことをちゃんと聞いて、ほどほどにしとけよ)
紋章をまさに発動させようとした、その時に、敵との間に割って入った者がいる。
目の前になびく、赤いハチマキ。
「後方へ!」
彼はチラッとだけ後ろのテッドを見た。
「そうよ!後は、あたし達にまーかせなさい!」
分不相応な大剣、逆にそれに遊ばれているような、そんな大剣を元気よく振り回すミツバも、明るく声を掛けてくる。
双剣を掲げて、まっしぐらに敵に向かっていく彼の背中は、こう言っているような気がした。
紋章は使うな、と。
(お前に言われたかねえよ!)
END
|