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今夜の番組チェック




W 島娘


(不覚だった)
 ベッドの中で、アルフォンスは嵐の日の出来事を思い返しては、唇をかんだ。あの日、敵襲を受けた時。島の海賊風情の男達は、所詮ローディスの敵では無く、次々と騎士の手にかかり、大地に倒れた。敵に敗色が濃く見え出した頃、オーソンヌの矢がリーダーの頭を貫ぬくと、海賊達は一目散に逃げ出した。その中の怪我を負った人間を絡めとり、口を割らせようとした際、雨の霧から弓を持った男が不意に現われた。男はレクトールに標的を定め、まさに弓を放たんとする。側にいたアルフォンスが、咄嗟にレクトールを押し倒し難を逃れたが、当のアルフォンスは、その拍子で海の方へと倒れた。そして、雨で緩んでいた地盤が崩れ、アルフォンスの体は荒れ狂う海へと落ちた。
(全く。間抜けな話だ・・・・・・)
 アルフォンスは右手で顔を覆って、大きくため息をついた。

 沈みゆく海の中で、アルフォンスはもがきながら、なんとか重い甲冑を外した。泳ぎ、急いで海面に浮き上がったが、嵐の波は容赦なく、再びアルフォンスを下に叩きつける。足は宙をかく一方。そこには何の支えもなく、ただ深い深い暗黒の海の底が広がっている。アルフォンスは、ひきずり込まれていく感覚に怯えながら、無我夢中で浮き沈みを繰り返した。荒れ狂う大海に対しては、人間など弄ばれる単なるひ弱な生き物にすぎない。側に運良く木片が浮いているのを見つけると、必死でそれにしがみ付いた。そこで記憶が途絶えている。
(生きているのが、不思議なくらいだ)
 荒れ狂う海の恐怖を、ひしひしと思い出す。
(こんな目に遭うのは、もうご免だな)
 アルフォンスは寝返りをうった。

 コンコン。ドアを誰かが叩いた。
「どうぞ」
 アルフォンスが応えると、亜麻色の髪をした少女が中に入ってきた。作りたての朝食を手にもち、少女は笑顔で「おはよう」と言った。
「今日の調子はどうですか」
 少女は朝食を側のテーブルの上に置いて、傍らにある椅子に腰掛けた。

 海岸に流れ着いたアルフォンスを救った少女。少女は、名をエレノアと言った。この古い、小さな教会で働いているという。
(純朴そうな女の子だ)
 初めて会った時、アルフォンスは、そう思った。彼女は、遭難した理由や、自分の素性を聞きたがったが、アルフォンスは、ただ仲間とはぐれてしまった、とだけ言った。これ以上、ごく普通の庶民に、余計な面倒をかけたくはなかった。黙々と朝食を食べるアルフォンスに、エレノアは尋ねた。
「今日の朝食は、どう?」
「おいしいよ」
 アルフォンスが答えると、少女は「良かった」と満面の笑みを浮かべた。

 沈黙が続き、それを気にしたアルフォンスが、窓の外の景色を見ながら話し始めた。
「ここからは海がよく見えるね」
 ソレア海岸の海は、この日も光を反射して輝いていた。
「穏やかで。あの日の嵐が嘘みたいだ。まったく、よくあんな嵐で助かったかと思うよ」
「人魚が助けてくれたのかもしれないわ」
 エレノアが笑って答えた。
「この海には人魚がいるのよ。優しくて、美しい人魚が」
「人魚?」
「そう。この太陽の光のように、黄金のうろこをもった人魚よ」
 エレノアは海を見つめて、目を細めた。
「よく一緒に海で泳いだわ。たくさん話もして。とても楽しかった」
 エレノアの表情が悲しげなものに変わったのに、アルフォンスは気付いた。
「今、その人魚はどうしているの?」
「ここからずっと北に行った所に火山があって、それが数年前から活動を始めたの。そのせいで、海流が変わって、もう会えないって。それっきり・・・・・・」

 エレノアは、アルフォンスが朝食を食べ終えたことに気付いて、席をたった。そして食器を片付け始めた。
「もう、行かないと行けないから・・・・・・」
 アルフォンスがお礼を言って、ドアを開けてやると、エレノアが思い出したように言った。
「お昼の、少し前ぐらいになると思うのだけど、貴方に会いたいという人がいるの。大丈夫?」
「俺に?会いたいって」
 アルフォンスは驚いて聞き返した。
「心配しないで。私の友人よ。北のラーヌンクルスで、昔、騎士をしていた女の人」
 




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