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X 騎士


「初めまして。私はイナンナと申します。お会いできて嬉しいです」
 長い黒髪を三編みに束ね、品の良い服装をした女性が、穏やかに微笑んだ。アルフォンスも名を名乗り、イナンナに席を勧めた。台所から戻って来たエレノアが、二人のカップに紅茶を注いでくれる。そして、二人の座るテーブルから少し離れた、窓の側の椅子に座った。二人は木造の丸いテーブルに向かい合い、まず、イナンナが遭難したことに対する同情を述べた。自分が助かったのはエレノアのおかげだ、とアルフォンスは感謝を込めて言った。

 まだ、二人が口をつけていない紅茶から、暖かい湯気がたちのぼる。アルフォンスは、真剣な顔で話を切り出した。
「イナンナ。貴方は、ラーヌンクルスで騎士をなさっていたそうですね」
「ええ。でも、それも昔の話です。数年前に、騎士団を脱団しました。今は、この地で雇われの傭兵をしております」
 イナンナは、そう言って、ゆっくりと紅茶を一口飲んだ。
「貴方は、本国から派遣された騎士ですね」
 アルフォンスは一瞬驚いたが、そのような素振りを見せることなく尋ねた。
「その通りです。しかし、何故、わかりましたか?」
「貴方の物腰は、ここの島の者とは違いますから。本国からやってきた方だと、すぐにわかります。それに、ここから少し北にある港町のスカベッルムに、今、本国から来たらしい騎士団の船が停泊しています。私は、それを貴方にお伝えにきたのです」
「ありがとうございました。多分、それは私の仲間です。その報せを聞いて、安心しました」
 アルフォンスは笑顔でその報せを喜んだ。

「スカベッルムに向かうのであれば、私がお供致しましょう。道はありますが、途中、迷いやすく危険な個所もありますので」
 彼女の親切な申し出に、アルフォンスは素直に甘えることにした。
「ぜひ、よろしくお願いします。島をよく知っていらっしゃる方が一緒だと心強い」
「それでは、明日の朝に、お迎えにまいります」
 イナンナが席をたちかけると、アルフォンスは慌ててそれを引きとめた。
「申し訳ありません。そのスカベッルムの町は、ここから遠いのでしょうか」
「いえ。馬でとばせば、一日もかかりません」
「非常に勝手な話ですが・・・・・・。もし、貴方のご都合がよろしれば、今すぐにでも出発するわけにはいかないでしょうか。私の身を案じている仲間を早く安心させてやりたいのです」

 アルフォンスは訴えるような目で、イナンナを見つめた。自分勝手なことと重々承知はしていたが、逸る気持ちを抑えられない。また、それが無理であるならば、自分一人で港町にむかうつもりだった。イナンナは、二人の側で、ずっと黙って話を聞いていたエレノアに視線を向けた。うつむいたまま、エレノアは何も言おうとはしなかった。イナンナにしても、アルフォンスを一人で港町に向かわせるわけにはいかない。彼女の目的のために。 少し考えた後、アルフォンスに告げた。
「わかりました。仲間と早く会いたいという、貴方の気持ちは、よくわかります。では、早速、貴方の剣と鎧を用意します。準備が済み次第、スカベッルムに向かいましょう」

 村を離れる際、エレノアが村の外れまで、二人を見送りにきてくれた。
「本当に、ありがとう。この恩は決して忘れないよ」
 鎧を身に着けたアルフォンスに、エレノアは言った。
「この辺にまた来ることがあれば、是非立ち寄ってね」
 アルフォンスは、うなずくと言った。
「黄金色の人魚が、また君に会いに来てくれることを祈っているよ」
 二人の騎士が足早に村を去っていく。エレノアは、その後姿が見えなくなるまで、静かに見送った。



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