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今夜の番組チェック

10000HitGET TakaNoさんに



カ レ Calais


 「やっぱ、手裏剣はだめだったよ。手裏剣は」
 湿原の空を飛ぶホークマンが、連れの忍者に不満をもらす。
「ドラゴンに手裏剣を打っちまうなんて。あいつら、結構、根にもつんだぜ」
「来れば、迎え撃てば良い。それだけだろう」
 忍び装束に身を包む女が、全く気に掛けていない、と言った具合に、素っ気無く返事をする。
 彼女は水の上を歩いている。アメンボウのように、足取りはスイスイと。その上を飛んでいる男のホークマンは、あーと頭を抱え込んで、抗議をする。
「お前だって、気付いてるだろう。あれから、すっかり、湿原の雰囲気がピリピリしてるってことに。ドラゴンの奴ら、怒っているんだよ。俺は、無駄な戦いだけはごめんだぜ」
 薄く、白い雲がかかった青空を見上げて。
「逃げ足の速いカレ様が、俺を置いてトンズラしちまうかもしれないし」
「ふん。逃げ足の速いのは、お前だろ」
 カレは歩調を速めて、さっさと先を行こうとする。
「あんなに、この湿原でドラゴンに危害を加えるなって忠告してたのにさ・・・・・・」
 ぶつくさぶつくさ。彼が何時まで経っても、後ろでつぶやくものだから、業を煮やしたカレが、
「ああ!もう!」
 と大声を出して振り返った。
「そうさ!お前が考えている通りだ。いきなり、草叢からドラゴンが飛び出してきたもんだから、咄嗟に手裏剣を投げてしまったんだ。驚いて、投げたんだ!」
 口元を桃色の頭巾の布で隠しているので、その表情はよく分からぬが。
「これでいいか。私のミスだった。ごめんな!」
 物凄い勢いで言い切ると、ぷいとそっぽを向き、また先を急ぎ始める。
「始めから、そう言えばいいのに・・・・・・。強がるんだからな、カレさんは」
「ふん」
 背後でにやにや、ホークマンが笑っている姿を想像するだに、彼女は腹立たしく思えてくるのだ。
「ま、そういう事で、これからドラゴンとかち合った時の対処法でも考えますか」
「・・・・・・結局、逃げるが勝ちなんだろ。お前曰く」
「ま、そういう事」
 渋い声を出す女に対して、脱力感に溢れる男の声。
 女忍者の後を、空飛びながら付いていくホークマンは、少しだけ上昇した。

 その時、視力の良い彼は気付いたのだった。右斜め四十五度の角度から、何かがこちらに向かって飛んで来るのを。
「カレ!隠れろ。何かが来る」
 ホークマンは一目散に湿原に降りて、丈高い葦の中に紛れ込む。そのすぐ横から、ひょっこりカレが顔を出す。
「ドラゴンか?」
 翼の羽ばたく音が徐々に近付いてくる。一頭や二頭じゃない。湿原に大きな影ができる。二人の近くの湿原の上を通り過ぎていく、一団。
「人間だよ!」
 ホークマンの驚愕の叫びは、ドラゴン達の羽音に、上手い具合にかき消された。ハイスピードで、一団の後ろ姿が遠のいていく。
 二頭のドラゴンと二頭のグリフォンの背に乗っていた人間達。鎧を着ていた。集団は武装をしていました。
「おいおい!ビソン湿原に来てるのは、俺達だけじゃないのかよ!」
 ホークマンは「やってらんないぜっ」と言いたげに、口をいーと横に広げた。
「・・・・・・どうだ。やはり、この湿原には宝があるんだ」
 カレは、少し、ほっとしたような顔をした。
 一向に成果の出ない宝探しに、彼女自身が何よりも不安に思っていたのだから。
「安心してる場合じゃないだろ!」
 即座にホークマンが突っ込みを入れる。カレはのん気に振り向き。
「あいつ等も宝を探しに来たんだろう。ここに宝がある証拠だ」
「俺達の同業者とは限らないぜ。見た感じ、ちゃんと武装してたもん」
「こんな所にわざわざ来る理由なんて、宝探しの他に何があるんだ?」
「百歩譲って同業者だとしても、ライバルが増えたら困るだろうが」
「確かに困るな」
「困るだろ」
 はあとホークマンが溜息をつく。その側で、腕組みをしながら忍者は思案をすると、口を開く。
「まあ、いいじゃないか。ピンチはチャンス。渡りに船だ」
「何だよ?」
「今、私達は、宝の手掛かりを無くしている。あいつ等は、何かを知っているのかもしれない」
「まさか・・・・・・」
 ホークマンが恐る恐るカレの顔を覗く。
「あいつ等の後をつけるぞ」
 連れの同意を求める事も無く、カレはさっさと走り始めた。
「・・・・・・はいはい」
 と、ホークマンがカレの後を追う。一陣の風のように駆ける彼女。
 彼の後ろ姿が泣いている。

 
 二人は、湿原の異様な光景に目を見張っていた。葦が見渡す限り一面中、倒されている。まるで、巨大な物に踏み倒されたよう、そこら辺で転がり回ったよう。長く生い茂る葦がすっかり倒されて、視界が開けているのは良い。が、湿原の沼地は凍っているし、一部の葦や大地が焼き焦げているし、散々だった。
「こいつはドラゴンと戦った跡だな」
 頭を掻きながらホークマンが言う。忍者がぼそりと。
「あいつ等、食われたのかな」
「そうでもないみたいだぜ。ドラゴンと派手にやり合ったみたいだけどさ」
 陽は西の空にすでに落ちて、世界は、わずかな残り陽の明かりにのみ照らされている。
「戦ったけど、逃げたようだ。信じられないけどさ・・・・・・。それにほら、湿原の空気が穏やかあ、になってるだろ」
 間も無く、夜の帳が降りようとしている。頑張った一日が終り、安らかな眠りの時間が湿原にも訪れる。
「きっと、あの集団にドラゴンテイマーがいたんだな。そんで、ドラゴンの怒りを静めたんだ」
 ホークマンが、ちらりとカレを横目で見る。
「誰かさんが、怒らせちゃったドラゴンを」
「・・・・・・喧嘩を売っているのか・・・・・・」
 ぎろりとカレが睨む。鋭く尖んがった視線が、男を突き刺す。
「完全に暗くなる前に、あいつ等を見つけるぞ」
「はいはい」
 ホークマン。再び空中に舞い上がる。

 「あいつ等」は、辺りがすっかり暗くなってから見つかった。暗闇の空に立ち昇る煙。先程、消されたのだろうか。未だほんのりとくすぶる焚火の煙が、有り難くも目印になった。張られたテントが目に入る。もう、休んでいるのだろう。
「腹減ったな」
「うるさい」
 カレが、ぴしゃりと一蹴する。
 しばらくして、テントの中から一人、人間がもぞもぞと出てきた。ランプを手に持っているので、姿が見える。
 黒い髪の少年だった。その少年らしい華奢な姿に似つかわしくないような、重厚な長剣を腰に差している。
「あら、可愛いわね」
「・・・・・・お前」
 一瞬、目の色を変え、言葉をもらしたカレを、平たい目をして彼は見る。
 少年は葦原の中に消えると、ちょっとしてまた姿を現し、テントの中に戻っていった。
 忍者は、いきなり、ホークマンの後頭部に右手を当てた。そして、彼の体を地面に押さえつけた。カレも腹ばいになり、体を低くする。
「な、な、なにっ?」
 咄嗟のことにびびるホークマンの脇腹に、黙らせようとカレの拳が入った。
 葦の隙間から覗く、カレの視線の先には、男がいた。百メートルも先の話だが。黒い忍び装束に身を包んだ男だった。カレは、手でホークマンをこずきながら、後退するように促す。二人は慎重に慎重に、元来た道を引き返していく。

 大分、現場から離れた所で、ようやくカレが安堵の息を吐いた。湿原の小島に立つ一本の木に寄りかかって、すらりとした足を投げ出した。
「どうしたんだよ!血相を変えて!」
「あいつ、やばい。あの忍者は、かなりやばかったよ」
「さっきのおっちゃんか?」
「忍者の勘だ。あの男、かなりできる。もう少しで、気付かれていた」
 ふうと息をもらしながら、カレは口を覆う頭巾の布を下げた。
 湿原のひんやりとした風が、すっかり暖まった頬をなでる。
 仰げば、満天の星空。見える星が余りにも多すぎて、黒い空に白い霞みがかかったようだ。昨日まで、ずっと雨であったから、こんな星空はカレも初めて見た。美しい光の煌きが、彼女を魅了する。一時だけでも、甘い空想にひたるのも良いだろう。瞬く星の彼方をしばらく眺める。
 そして、この星空のように、自分の心を騒がせるような素敵なお宝と巡り会いたいと、心から思うのだった。空の星のように、光り輝く地上の星が、きっと湿原のどこかにあるのだ。
 カレが独り言のようにつぶやく。
「さて。どうしようかな・・・・・・」
「まずは、飯にしないか」
 真剣な表情で、ホークマンが連れに訴えた。

      


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